先日、私がある不動産投資のセミナーにいくと、その配布資料に「投資利回り10%」と記載されていました。この「不動産の利回り」とは一体どういうものでしょう。
今日のテーマは、不動産投資を行う上で欠かすことのできない「利回り」についてお話しします。
表面利回り
1億円の物件で、家賃が年間1000万円取れる(見込み)物件であれば、表面利回りは10%となりますが、既に皆様は、如何にこの表面利回りが意味を持たないものであるのか、ご存知であると思います。
この表面利回りの計算は年間収入(家賃×12カ月分) ÷投資額で表しますが、実際に不動産経営を行っていると、 様々な経費が発生します。
これら経費を収入から差し引いた純収益を投資金額から割り引かなければ、本来の利回りと呼べません。
総潜在収入
そこで最初に行うのは「総潜在収入」の確認です。
総潜在収入とは、市場において貸手や借手に特段の事情がなく、実質的に貸し出すことのできる家賃の総合計を言います。
注意しなければならないのは現在の賃貸物件の募集賃料を計算した満室時の賃料合計ではありません。
今の部屋が10万円で契約されていたとしても、もし空室になり募集すると10万円では借り手がつくとは限りません。今の相場でいうと、9万円であれば、総潜在収入は9万円としなければなりません。
そして、この総潜在収入から空室率、運営費を差し引いた営業純利益の計算をします。
営業純利益=総潜在収入一空室損一運営費
不動産投資収益率(ROI)
この営業純利益は、運用されている不動産の価値を決める最も重要な数字です。この営業純利益と英語では「NetOperating Income] Tさらに頭文字を取って「NOI」と呼ばれています。このNOIが多ければ多いほど、不動産の価値は高く、その額が低ければ、不動産の価値は低いと評価されます。
このNOIを使った利回りを「不動産投資収益率(ROI) 」と呼びます。
ROI=NOI÷(不動産価格+購入経費*)
*購入経費とは、仲介手数料や印紙税等の購入時に発生する全ての経費の合計金額です。
表面利回りは、文字通りその上っ面の数字のみを見ているため、全くもって意味をなさない利回りであることが分かります。
この「不動産投資収益率(ROI)」こそが、その不動産の本来の力を表す利回りということになります。
自己資本投資収益率 (ROE)
この「不動産投資収益率(ROI)」ともう1つ大切な不動産投資指標があります。
それは、「自己資本投資収益率 (ROE)」と呼ばれるものです。これが意味するものとは、文字通り、自己資金に対するリターンがどれくらいかを表すものです。
これを計算する上で、欠かせないのが「キャッシュフロー (以下CF)」の計算です。
このCFの計算式は、NOIから年間のローン返済額を差し引いたものとなります。
CF=NOI-年間のローン返済額

例を挙げてみましよう。
この時のCFは幾らでしょうか?
・投資価格:1000万円
・年間NOI収入:80万円
・ローン金額:700万円
・自己資金:300万円
・年間ローン支払額:40万円
【計算式】
(NOI)80万円 -(年間ローン支払額)40万円=(CF)40万円
となります。
これを基に「自己資本投資収益率(ROE)」を求めます。
計算式は
(CF) 40万円÷ (自己資金)300万円=13.3%
となります。
因みに、この物件の「不動産投資収益率(ROI)」は
計算式は
(NOI) 80万円÷(投資価格)1,000万円=8%
ですね。
同じ1,000万円の物件ですが、 8%と13.3%という違う2つの利回りの数字が出てきました。
どちらも正しい数字です。ただ、見ている角度が違うのです。
簡単に言うと、
- 「不動産投資収益率(ROI)」はその物件が今現在持っている力を現しています。
- 「自己資本投資収益率(ROE)」は投資家個人の各々の状況(借入金額、金利、期間など)によって変わってきます。
因みに、この例でローンをー切組まなかった場合、自己資金1,000万円であった時の「自己資本投資収益率(ROE)」は、 銀行への返済額がゼロなので8%となります。
計算式は
(NOI)80万円 - (年間ローン支払額)0万円=(CF)80万円
↓ROEは
(CF) 80万円÷ (自己資金)800万円=8%
レバレッジを効かせる
ここで良く考えてみて下さい。
ローン700万円を組んだ場合のROEは13.3%でした。全額自己資金の場合のROEは8%です。
この場合、ローンを使った方が利回りが良くなるのです!
これを「正のレバレッジ効果」と言います。 これを判断する時は、2つの利回りの数字を比較すれば良いのです。
- 「正のレバレッジ」:ROI < ROE
- 「負のレバレッジ」:ROI > ROE
全額キャッシュで可能であったとしても、 あえてローンを組み、「正のレバレッジ」を有効に利用することで、利回り(ROE)を上げることもできます。
「レバレッジ」とは「テコ」の原理のことで、所謂「大きな資産」を「小さな資金」で動かすということです。
これを読まれている皆様の中にも聞きなれない言葉がある (特にカタカナ、英語が多い)ので難しく思われる方もいるかも知れません。
よく整理すると実はそれほど難しくはないのですが、 「奥が深い」のは事実です。だからこそ、「興味深い」 話になると思います。
レバレッジの「マジック」
では、ここで具体的な例を挙げてのレバレッジを使った不動産マジックを解説します。

以下の例で解説します。
【物件情報】
投資価格:1億
年間NOI:530万
【ローン条件】
期間:30年
金利:2.5%
自己資金:2,000万
借入金額:8000万
年間ローン支払額:380万
この物件の投資分析を以下の順で行います。
- ROIを求めてみましょう。
(NOI)530万÷(投資価格)=(ROI)5.3% - 次にCFを求めてみましょう。
(NOI)530万 - (年間ローン支払額)380万=(CF)150万 - 次にROEを求めてみましょう。
(CF) 150万÷ (自己資金)2,000万=(ROE)7.5% - 次にレバレッジの効果測定を行ってみましょう。
(ROI)5.3% <(ROE)7.5%なので、「正のレバレッジ」ということになります。つまり、 借入することにより収益率が高くなることを意味します。
上記の4つのステップで、ROI,ROE,CF,レバレッジ効果の確認ができました。
ROIは不動産の持っている「力」を示す指標なので、個人の状況(ローンの状況)に左右されることはありません。誰が購入してもROI5.3%は同じ利回りです。
また、全額現金の時のROIとROEは同じくともに5.3%です。この場合銀行への返済がゼロなのでCFはNOIと同じ数字530万となります。
(全額自己資金)
ROE=5.3% CF=530万
(80%ローンを組んだ場合)
ROE=7.5% CF=150万
全額ローンの方がCFが多く「見入り」が沢山あるのです。これは当然といえば、当然ですよね。全額現金の場合は、銀行への返済がないのですから。
ただ、面白いのは以下のケースを考えた場合です。
今回のような条件の物件が5つあった場合です。 全額現金で購入すると1棟しか変えませんが、8割ローンを組んだ場合、同じようにローンを組むと5棟物件を所有できます。 この場合、CFは、150万×5棟=750万となり、全額現金時のCF530万を超える数字になり、さらに所有する物件は5倍になるのです。
「正のレバレッジ」を上手く活用するとこのようなことが起きるのです!
落とし穴に注意
レバレッジを効かせ、資産を5倍にすることは確かに可能です。ただ、5つの物件の物件を保有するので、設備等の故障の修繕費や天災地変による建物の補修費用などが発生するリスクもそれなりに保有することになります。
その修繕費を支払う余剰資金を残していなければ、修理修繕ができず、結果建物の価値も下がり、家賃収入も減少していきます。
大切なことは、自身の支出(子供も教育費、ある程度の娯楽など)や修理修繕のリスクに対する余剰資金を確保しながら、身の丈にあった不動産投資を行うことが大切です。